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出逢い

20世紀のある年の冬、私は営業職として長野県にいた。

御宅を訪ねると、郷土の味をごちそうになることもしばしばだった。

大抵は林檎あるいは野沢菜だったが、いちどだけ蜂の子とイナゴを勧められた。

どうして断ることができようか。

それはこの地域の食文化であり、長きにわたり人々の命を繋いできた貴重な蛋白源であったのだ。しかも小娘二人がどう反応するか見守っている、その目の前で!

まず攻略すべきはイナゴだ。

(エビ・・・エビ・・・)と頭の中で繰り返し唱えながら口に運んだ。

実際、食感は小エビのようだった。

さていよいよ蜂の子である。

「蜂」の「子」、すなわち幼虫。

佃煮の味がよくしみていそうな小さくて黒いものを、私は慎重に選んだ。

「あっ・・・美味しいです!」

同僚が言った。

そうなのか。

しかし、意図的に醤油しか味わおうとしなかった私は、2つ目に手を伸ばす勇気を最後まで出すことができなかった。